19世紀後半の話ですが、イギリスの国会議員の馬車が泥沼に入ってしまって、動けなくなりました。国会議員は自分で何とか引っ張ろうとしましたが、駄 目でした。ところが、彼が困り果てたところへ、一人の農家の少年がやって来て、泥沼から馬車を引っ張り上げることに成功しました。驚いた国会議員は、その青年に、

 「お金は、どれくらい払ったら良いのかね」と尋ねました。 少年は答えました。
 「僕は、何も要りません。あなたのような偉大な方をお助けできて、光栄です。」
 すっかり感心してしまった国会議員は、また尋ねました。
 「大きくなったら、何になりたいのか。」
 少年は、医者になりたいけれども、家庭が貧しいから無理だろうと答えました。すると、国会議員は言いました。
 「あなたの学費を全部、出そう。」

 こうして、少年は学校に行き、医者になりました。その50年後のことです。イギリスのウインストン・チャーチル首相が肺炎で、死にかけていました。第二次世界大戦の真っ最中でした。イギリスはドイツの空襲を受けて、ピンチに立たされていました。最後の手段として、医者たちは新しく開発されたばかりのペニシリンという薬をチャーチルに投与しました。すると、チャーチル首相は一日で元気になり、イギリスを勝利に導くことができたのですが、そのペニシリンを発明した医者は、50年前に、国会議員の馬車を泥沼から引き上げた、アレクサンダー・フレミングという少年でした。しかも、馬車を引き上げてもらった国会議員は、ランダル・チャーチル、つまり、ウインストン・チャーチルの父親だったのです。こうして、少年の小さな善行が自分の人生を変え、チャーチルの少年に対する善行が自分の子供の命を救い、また国を破滅から救うことにつながったのです。

 最近、アメリカでは、『小さな親切運動』が話題を呼んでいます。一人一人が毎日、隣人に対する親切を心掛けていくなら、世の中が変わるということですが、聖書の教えとも一致した考え方です。

 「無慈悲、憤り、怒り、叫び、そしりなどを、いっさいの悪意とともに、みな捨て去りなさい。お互いに親切にし、心の優しい人となり、神がキリストにおいてあなたがたを赦してくださったように、互いに赦し合いなさい」(エペソ書4章31−32節)。

 「心に不安のある人は沈み、親切なことばは人を喜ばす」(箴言12章25節)。

 2001年9月11日、人類史上、かつてなかった同時多発テロ事件が発生しました。今まで映画やアニメーションの世界でしかないようなことが現実化し、人々を恐怖と不安に陥れました。そして、その不安は今も続いています。

 世の中を変えようという大きなビジョンを掲げなくても、自分の家庭、学校、職場で小さな親切を実践すれば、周りの人間も、また、私たち自身も、ホッとし、元気が出ます。また、そのうちに、お互いの傷も、段々と癒えていくはずです。



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